クリエイティブビレッジをたずねてOFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO/オフィスキャンプ東吉野
掲載日:2015年5月29日
2015年3月にオープンした、古民家を改築したシェアオフィス「オフィスキャンプ東吉野」。村に移住し、新しい生活を始めたクリエイターたち。その居心地は?
建物は東吉野村役場のすぐそば。大淀方面、三重方面へと続く道の交差点に位置し、ツーリングするライダーたちもスピードを緩めて目を留めるほど、味わいのある古民家だ。1階にはオフィススペースとコーヒースタンドが展示スペースを挟んで併設。築70年の素材をそのまま生かした空間は、道路に面するガラス窓から差す陽射しで明るく照らされる。Wi-Fi環境のもと、キッチン、和室、風呂、トイレ、複合機を自由に利用しながら仕事が進む。若いクリエイターやアーティストの移住につながる拠点として、村が空き家を整備して施設とした。
運営するのはデザイナー坂本大祐さんと、プロダクトデザイナー菅野大門さん。坂本さんによるネーミングには「オフィスとキャンプ、都会と田舎、古いものと新しいもの、若者とご年配という具合に、異なる要素を持つものが混ざり合う場所にしたいですね」と想いを込めた。その言葉通り、デザイナーやライター、カフェオーナー、仏像を彫る仏師、大学講師など、多様な分野の人々が訪れている。大きな天然木一枚板のテーブルでは作業や会議が行われる。オフィス利用時には扉を閉めるのだが、格子越しに人の気配が感じられ、ほどよい静けさが心地よい。一方、コーヒースタンドでは住民も気軽に立ち寄り、お茶を楽しむ。「取材にきたライターさんとコーヒーを飲んでいた地域の人と会話が始まって、僕らそっちのけで林業の話が盛り上がったこともありますね」
坂本さん自身も大阪から移住してきた。東吉野で暮らして8年目。「地方に目を向けている人が増えています。特にクリエイターと呼ばれる人たちです。インターネットがつながれば、場所にしばられずに働くことができますから。かといって、すぐに移住するのはいくらなんでも難しい。出会っていきなり結婚は無理でしょ。恋愛と同じですよ。都会と田舎を行ったり来たりしながら、ここで仕事をやってみる。それを繰り返しているうちに、よし、ここがいい!と思ったら移住を決めたらいいのです。気持ちが固まるまで、いったん受け入れる船着き場みたいな感じにオフィスキャンプがなればいいな」。
移住2年目となる菅野さん一家も大阪から移ってきた。「引っ越して間もない頃、6か月の長男を連れていると、知らない人から菅野さーんと声をかけられるんです。そして、子どもの名前を呼んで、かわいいねーって言ってくれる。あっ、僕らのこと知ってるんや。フェイスブックより情報早いかも。田舎スゴイなって感じました」。雑貨のデザインから販売までを手掛ける菅野さんは、素材としての木が実際に育つ現場で目にする自然のダイナミックな姿にひかれるという。本質的なモノに触れ、体感できる暮らしは都会では味わえないのだと。「オフィスキャンプに来る人には、ここで感じたものを都会に持ち帰って仕事に反映してほしいし、そんなものづくりの拠点として使ってくれる人が来てくれたら、いい村になっていくんじゃないかな」
村の活性化にもつながっていくオフィスキャンプの存在。今後はイベントの開催も計画中だという。「長崎在住の著名なデザイナーを招いて、一緒になにかを作ってみたいと考えています。なんでここでやってるねん、というくらいのクオリティの高いものをやりたいですね。そんなギャップが面白いんじゃないかな。この場所が村の住民と僕たちにとっていい成長をしていくためには、思いを共感してくれる人に来てもらいたいから。地道だけど、決して手は抜かないやり方で進めていけば、田舎の良さが際立つのではないかと考えています」
若者の移住施策としてクリエイティブビレッジ構想を打ち出した東吉野村。「オフィスキャンプ東吉野」は、村の再生に向けての第一歩となる。水本実村長は、「便利さを求めて村を出る若者が増えるなか、環境のいい場所で子育てしたいといって移住を希望する人がいることに最初は驚きました。移住する人が増えれば、出ていく若者も減るかもしれませんし、空き家の活用ができれば高齢者が多い地域も元気になるでしょう」。そのためには住民自らがにぎわいを取り戻そうという気持ちになってもらうことも大事だと話し、移住者へのあたたかい支援を呼びかける。東吉野いちの繁華街だった小川地区。「クリエイターの移住の拠点としてオフィスキャンプを活用し、まずはここ小川が元気になって、村全体の発展へとつなげていきたいと考えています」
DATA OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO |