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新酒 『花巴 KASAMA』、醸造ストーリー

掲載日:2023年6月8日

宇陀市笠間地区で栽培した酒米を使って醸造された、新酒『花巴 KASAMA』(以下、「KASAMA」)。醸造を手掛けるのは、吉野にある「美吉野醸造」です。野生酵母を生かした伝統的な酒づくりにこだわり、吉野の風土が生み出す個性豊かな酒を醸造する希代の蔵元です。今回は、「KASAMA」ができるまでのプロセスを紹介するとともに、普段目にすることのない醸造所の現場をご紹介します。

【目次】
《精米~放冷》 大切なのは、時間と水
《蒸米~製麹(せいきく)》吉野杉の麹箱でつくる総破精(そうはぜ)麹
《蒸米~仕込み》 野生酵母を自然淘汰させる酒母
《搾り~瓶詰め》 緊張感がほとばしる搾りの瞬間
《仕上がり》 じっくり盃を傾けて

《精米~放冷》 大切なのは、時間と水

1.酒米

2.洗米

3.浸漬(しんせき)

4.水切り

5.蒸米

6.放冷

酒造りは、まず酒米(玄米)の精米から始まります。醸造に使われる酒米は、食用の米と比べて粘り気が少なく、吸水性に優れているのが特徴で、麹が育ちやすく、発酵にも適しています。今回使用する笠間米は、少し硬め。その特徴を壊さず、製造段階で調整し、目指すKASAMAの味に近づけていくのが、杜氏・橋本さんの役割です。

次に、精米した米を洗って糠(ぬか)を取り(洗米)、水に浸していきます(浸漬)。洗米と浸漬は、酒米の種類や出来具合、その日の気温をよみ、数秒単位で微調整。今年の笠間米では、概ね10kgの米を1分間洗米し、その後、水に8分半浸漬します。同蔵では、洗米用の水は、大峯山の伏流水(ふくりゅうすい)を使用。軟水でクセがなく、優しい甘さが特徴で、仕込みの水にも使われています。漬けた米は、一晩かけて、しっかりと水切りをします。

次は、酒米を蒸す作業です。熱い蒸気で一気に加熱し、酒造りに適した水分量に調整します。コツは、米の外側が硬く、中心がやわらかくなるように蒸すこと。蒸米を適度な温度に冷ますために放冷機へ。冷ます温度も、米の性質やその日の気温に合わせて調整します。

大峯山の伏流水

《蒸米~製麹(せいきく)》 吉野杉の麹箱でつくる総破精(そうはぜ)麹

1.床もみ

2.冷却

3.米の温度を計測

4.まとめる

5.寝かす

6.麹を育てる

次の工程は、酒の骨格となる麹づくりです。

まず、蒸米を麹室に運び、「床もみ」と呼ばれる作業をします。吉野杉で作られた室は、50年以上張り替えせず、温度を管理するため、周囲は「もみ殻」で囲まれています。

ゴムのように弾力のある蒸米

床もみのコツは、米粒をつぶさないように、手で米をほぐし、麹の菌を米にまんべんなくつけること。室の中は体力を消耗するほどの蒸し暑さですが、酒の味を左右する非常に重要な工程のため、機械に頼らず、あくまで手作業。一粒一粒、米の硬さを見極めながら、米と対話するかのような時間を、蔵人たちはとても大切にしてきたのだそうです。

床もみが終わったら、米の温度を計測。高い場合は、あおいで冷却し、品温を均一にします。その後、布とビニールシートで米を包み、15時間ほど寝かせたら、杉の箱に入れ、細かい温度管理をおこないます。室の温度は31.9℃、湿度は80%。菌糸は湿気を好むため、菌が米の中まで入っていくように、室内を加湿し、最終的には湿度80%ぐらいを保ちます。そうすることで、米をしっかりと溶かす酵素を引き出し、菌糸が米の中までいきわたり、良い麹ができるのです。

「麹造りで難しいのは、米ごとに調整が異なること。温度、湿度、時間、タイミングなど、すべてが米ごとに違うため、その都度微調整をしなければなりません。そうした調整が、技術といえますね」(橋本さん)。

《蒸米~仕込み》 野生酵母を自然淘汰させる酒母

1.蒸米をタンクへ

2.醪(もろみ)

3.仕込み①

4.仕込み②

蒸米は、酒母造りにも使われます。まず、タンクへ麹と水を入れ、そこに放冷した蒸米を入れていきます。酵母無添加の為、25日ぐらいの日数をかけて酵母菌を増殖させます。

次は、醪(もろみ)の仕込みです。
酒母に、米麹・水、放冷した蒸米を3回に分けて加えていき、4日間かけて仕込んでいきます。これが「三段仕込み」で、1日目が「添(そえ)」、2日目が増殖を待つ「踊り」、3日目は添の倍ほどの量を加える「仲(なか)」、4日目がさらに倍ほどの量を加える「留(とめ)」です。仕込みの量を段々増やして、30日ほどかけて醪を発酵させます。発酵が進むと、炭酸ガスが生成され、表面にプクプクと泡がみられます。まさに、醪は生き物だと感じられる瞬間です。

「笠間米」の発酵で使われたサーマルタンク

美吉野醸造で最も古い木桶

タンクは、サーマルタンク、ホーロータンク、木桶の3種類で、目的に合わせてタンクを変えます。「KASAMA」ではサーマルタンクを採用。機械で温度を管理することで、安定した味わいを供給します。

《搾り~瓶詰め》 緊張感がほとばしる搾りの瞬間

1.原酒

2.貯蔵

3.色や風味を確認

4.完成

発酵期間が終わると、いよいよ、仕上げの工程です。
大きなアコーディオンのような圧搾機で少しずつ醪を搾り、原酒と酒粕に分けます。大切なのは、搾るタイミングです。酒は、数日、数分おいているだけで、どんどん風味が変わるほど繊細。いつどの段階で搾るのか、その見極めこそ、杜氏の経験と勘が冴えわたります。

「旨味、香り、味わいを吟味しながら、目指す味になるまで発酵させます。今回は、繊細かつ旨味の強い味を目指しているので、早すぎると落ち着かず、遅すぎると甘さが戻ってしまうため、搾りの時期が難しかったです」(橋本さん)。

搾る原酒を1~1カ月半ほど寝かし、まろやかな味わいへと熟成させます。目指している理想的な味や酒質ができれば瓶詰めです。その後は出荷し、いよいよ人々の手元に届きます。

《仕上がり》 じっくり盃を傾けて

「花巴 KASAMA」は、旨味が強く、甘みのバランスも良く、肉料理などのジューシーな料理にあう、珠玉の純米大吟醸に仕上がりました。奈良みらいデザイン株式会社が生産した酒米「吟のさと」を使って、美吉野醸造が醸造した比類なきプロジェクト。「KASAMA」には、多くの人の思いが込められています。友人、家族、同僚、もちろん一人でも、静かに盃を傾けてみてはいかがでしょう?

◆「花巴 KASAMA」

  • 製造者/美吉野醸造株式会社
    内容量/720ml
    品目/日本酒
    アルコール分/16%
    原材料名/米(奈良県産)、米こうじ(奈良県産米)

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