奈良の梨の歴史、そして「まぼろしの梨」の誕生!
更新日:2023年8月31日
シャリシャリとした歯ざわりと、みずみずしい甘みが魅力の梨。店頭に梨が並び始めると夏の終わりを感じますよね。
日本の梨の主産地といえば鳥取県や千葉県をイメージしますが、実は奈良でも梨が栽培されています。奈良の主な栽培エリアは、吉野川が流れる県中部の大淀町と五條市。特に大淀町は梨の花が町の花とされ、マンホールには梨の花と吉野川の鮎が描かれているほど、町を上げて梨づくりに取り組む“梨推しの町”なのです!
8月中旬から11月頃までの収穫シーズンには、町内の観光農園で梨狩りを楽しむこともでき、多くの観光客でにぎわいます。
今回は大淀町を軸に梨の歴史に迫ります。
目次
現在の梨とは似ても似つかぬ古代の梨
梨の歴史を語るなら、まず外せないのが古代の梨。実は古代の梨は、いま私たちが食べている梨とはまったくの別物でした。
小粒ながらも梨独特の斑紋が見られるマメナシの実
当時の梨は直径1cmほどの「マメナシ」という品種と考えられており、はるか昔に大陸から日本に持ち込まれたとされています。
我が国に梨が定着したのは平安時代以降と考えられており、それまでの歴史ははっきりとは分からないのですが、『日本書紀』にこんな記述があります。
持統天皇七年三月丙午条詔。令天下勸殖桑紵。梨栗。蕪菁等草木。以助五穀
(出典:岩波文庫『日本書紀』一部抜粋)
持統天皇七年は西暦693年に当たります。この文章は、『この年、米や麦といった「五穀」の補助作物として、持統天皇が「桑・梨・粟」などの栽培を奨励する詔(みことのり。天皇の命令)を出した』という意味。
つまり、飢饉など不作の際の“救荒作物”として梨が認識されていたことがわかります。
しかし、このマメナシは硬くて渋く、決しておいしいものではなかったようです。
100年以上前から続く梨の産地、大淀町・大阿太高原
一つ一つ、大切に袋がけされて育つ大阿太高原の梨
奈良の梨といえばブランドフルーツの一つ「大阿太高原の梨」が有名です。
この梨の産地は奈良県大淀町にある大阿太(おおあだ)高原。ここは豊かな水量を誇る吉野川と竜門山地に挟まれた丘陵地で、梨が育つのに必要な日照・気象・土壌の3条件が揃った、まさに梨の栽培適地。
現在、大阿太高原では約40戸の農家で幸水や豊水など複数の品種が栽培されていますが、一番人気は県下一の出荷高を誇る「二十世紀」です。大阿太高原は梨園として開業した明治35年(1902)から、先人たちの努力によって土壌の改良が進められてきました。その結果、とても甘くて香り高い梨が育つのだそうです。
契機は明治! 門外不出の高級フルーツ「凱歌梨」の誕生
大阿太高原はいかにして梨の産地になったのでしょう。その歴史には一人のキーパーソンが存在します。札幌農学校(現在の北海道大学の前身)で当時最新の農業・園芸技術を学んだ奥 徳平(おく とくへい)氏です。
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国内出荷用に使用した「勝利梨」のレッテル |
奥徳平氏の農園を引き継いだ果樹農家が使った「凱歌梨」のレッテル |
(出典:大淀町果樹組合発行 「大阿太高原のあゆみ 梨山への道 100年の伝統が次の100年を創る」より) |
彼は果樹栽培に適した土地を探して、明治35年(1902)に北海道から奈良県大淀町(当時は大淀村)薬水(くすりみず)に家族で移住、梨のほかに桃などを栽培する果樹園「薬水園」を開きました。
明治38年(1905)、奥氏は丹精込めて育てた新品種の梨を日露戦争(1904~1905)の戦勝にあやかって「凱歌(がいか、又はかちどき)梨」と名付けて販売。
明治43年(1910)には「凱歌梨」を商標登録して苗木の予約分譲を始め、正式な分譲者以外が「凱歌梨」の名前を使うことを禁じたそう。また苗木泥棒を防ぐために「薬水園」の周囲には有刺鉄線を張り巡らし、雨の強い日などには鉄砲を持って見回ったり、接ぎ木の季節になると農園に猛犬を放ったりと、徹底的に警戒をしたのだとか。さらに社会的地位のある人物のデータが載った「日本紳士録」(1889年創刊)から名だたる名士を選んで直接「凱歌梨」を贈り、宣伝に努めた話も伝わっています。
その後、昭和初期にかけて周辺農家にも「凱歌梨」の栽培法が伝わり、名前も「勝利(かちどき)梨」と変えて出荷されました。当時、梨は高級フルーツでとても高値で取引されたそうです。勝利梨は京阪神や東京の市場のほか、中国や朝鮮、極東ロシアにも輸出され、瞬く間に大淀町は梨の一大産地として名を馳せるようになりました。
※「凱歌梨」「勝利梨」は、現在は「二十世紀梨」として販売されています。
こだわりの“樹上完熟”梨
大阿太高原の代名詞ともいえる「二十世紀」梨は、木に成っている状態で完熟してから収穫する、“樹上完熟”収穫がこだわり。夏の日差しをたっぷりと浴び、糖度・香り・歯ごたえの3拍子が揃った最高のタイミングで一つ一つ丁寧に収穫されるため、流通量が少なく、市場にはあまり出回らないことから“まぼろしの梨”とも呼ばれています。
令和2年、その樹上完熟梨の中でも1/1000個の確率でしか採れない、糖度・サイズなどの特定基準を満たした“とびきり”の二十世紀が「奈良県プレミアムセレクト」に認定。吉野杉・檜を使った職人手作りのギフトボックスに入れて、数量限定で先行予約販売されています。
購入したい方はコチラ
最後に
いかがでしたでしょうか?
初めて大淀町の梨を食べた人は、おそらくその美味しさに驚くかもしれません。
残暑厳しいこれからの季節、瑞々しい梨を求めて大淀町へ出かけるもよし。お取り寄せしてご自宅で楽しむもよし。ぜひ一度味わってみてください。
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