華麗にして精緻な天平工芸の極み「第70回 正倉院展」に行こう!
掲載日:2018年10月5日
木々が赤に黄に色づき、鹿たちの声が高く響いて秋深まれば、いよいよ「正倉院展」の季節です。平成最後の正倉院展となる今年も、天平工芸の技のすべてを凝縮したかのような、華やかで精緻な装飾をこらした宝物が多数出陳されます。今年はどんな宝物との出会いが待っているでしょうか。ひと足早く「第70回正倉院展」の見どころを紹介します!
世界に誇る「正倉院宝物」とは?
シルクロードの終着点といわれる奈良。奈良時代にはすでに国際交流が盛んで、異国の文化や文物が遣唐使などによってたくさんもたらされました。その刺激を受けて高級素材を用い、技の限りをつくした異国情緒あふれる工芸品、調度品、仏具、楽器などが国内でも作られました。正倉院にはこれらのほか、戸籍などの文書類、文具、染料、薬など、膨大な点数の品々が収められ、整理された宝物だけでも9千件を超えています。
この宝物のはじまりとなったのは、天平勝宝八歳(てんぴょうしょうほうはっさい)(756年)の聖武天皇の七七忌に、光明皇后が天皇の冥福を祈って大仏に献上した天皇ゆかりの品々です。その後、時を経て、宝庫は3つに仕切られ、北倉にはおもに聖武天皇ゆかりの品々、中倉には東大寺に献納された品々や文書、南倉には仏具や大仏開眼会(だいぶつかいげんえ)などの東大寺の儀式に関わる品々が納められました。1200年もの昔から大切に継承された宝物群は世界にも類がなく、まさに世界の至宝ともいえるのです。
そもそも正倉院ってどんなところ?
学校できっと一度は習う「正倉院」、実際にご覧になったことはありますか?正倉院は東大寺大仏殿の北西、約300mのところにあります。国宝に指定されている「正倉院正倉」は南北約33m、高さ約14m、総ヒノキの高床式校倉造(あぜくらづくり)の倉庫で、8世紀中頃に建てられました。かつては「校倉造の木材が呼吸して通気性がよかったために宝物が守られた」という説が信じられていましたが、実際には、宝物は辛櫃(からびつ)と呼ばれる櫃に収められたために適度な温湿度調整がなされ、今に伝わったというのが正しいようです。現在宝物は、正倉に近い鉄筋コンクリートの東宝庫・西宝庫で管理されており、正倉には櫃などが納められています。
正倉院は1つだけじゃなかった?
ところで「正倉院」の本当の名前は「正倉院正倉」といいます。奈良~平安時代、日本各地の役所や大きなお寺には、大事なものを収める「正倉」と呼ばれる倉庫が置かれ、正倉がたくさん建ち並ぶ一郭を「正倉院」と呼びました。つまり正倉院は、かつては一般名詞だったのです。しかし時代が下るにしたがって数が減り、最後にたった1棟、東大寺の「正倉院正倉」だけが残りました。そのため今では「正倉院」と言えば、東大寺の正倉院正倉だった建物を指す固有名詞となっています。
★校倉造の「正倉院」も見に行こう!
正倉院正倉は外から見学できます。正倉院展と宝庫を見て、正倉院をコンプリートしよう!
(申し込み手続き不要、見学無料)
公開日 |
正倉院展の会期中は毎日 |
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場所 |
東大寺大仏殿から北西へ300m |
開館時間 |
10:00~15:00 |
今年絶対見ておきたい正倉院宝物セレクション!
咲き誇る螺鈿の花、花、花!
平螺鈿背八角鏡(へいらでんはいのはっかくきょう)
北倉42、径32.8㎝、縁の厚さ0.7㎝、重さ3514.8g
『国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)』記載の聖武天皇ゆかりの鏡で、唐で作られたと考えられています。咲き誇る白い花はヤコウガイの螺鈿(らでん)装飾。表面には非常に精緻な毛彫(けぼり)が施されています。花弁や花心の赤い部分には彩色した上に琥碧(こはく)が伏せられているため、赤がより鮮やかに見えます。南洋産の貝の花々の間には、イラン産のトルコ石の細片が散りばめられ、唐代の盛んな国際交流のようすも窺えます。ところどころに配された尾長鳥のちょっぴり不機嫌な顔も愛らしいですね。
高貴な女性の気品あるはきもの
繡線鞋(ぬいのせんがい)
北倉152、長さ27.5㎝、幅7.6㎝、かかとの高さ3.4㎝
『屛風花氈等帳(びょうぶかせんとうちょう)』に記される女性用のはきもの。正倉院には同様のものが4両伝わります。そのなかの1両に、日本には自生しない黄麻(こうま)が用いられていること、またトルファンのアスターナ381号墓からこれらとよく似たものが出土していることから、中国製と考えられています。甲の中央から両側面の中央に、足にかける紐がわずかに残っています。つま先から甲にかけ、大きくて華やかな花形の飾りがつき、色とりどりの美しい刺繍(ししゅう)も施されていることから、身分の高い女性が履いていたのではと考えられています。
玳瑁×螺鈿装飾の圧倒的ボリューム感
玳瑁螺鈿八角箱(たいまいらでんはっかくのはこ)
中倉146、長径39.2㎝、高さ12.7㎝
珍しい貴重な素材を惜しげもなく使った、とても贅沢な献物箱。底裏を除く表面全体に玳瑁(たいまい)を貼り、その上に螺鈿(らでん)を施します。蓋(ふた)の表には小さく丸い連珠文帯(れんじゅもんたい)で区画をつくり、中央に大きな唐花(からはな)、その外側には蓮花と荷葉(かよう/蓮の葉)に乗るオシドリの雌と雄を交互に配します。玳瑁の裏には、黄色やこげ茶色の彩色を施しているので、玳瑁の質感や斑が強調され、見ているだけで圧倒されます。
あらゆる技法を駆使した天平工芸の粋
沈香木画箱(じんこうもくがのはこ)
中倉142、縦12.0㎝、横33.0㎝、高さ8.9㎝
正倉院の献物箱の中でも屈指の優品といわれる木箱。表面の沈香を貼った部分には金泥(きんでい)で山岳文や流水文を描き、微細なパーツで矢羽根文や甃(いしだたみ)文などの木画を表し、さらには床脚(しょうきゃく)部分に象牙の透かし彫り…。箱の隙間を埋め尽くすかのような技巧の数々は、1回きりでは十分に見つくせないほど。蓋(ふた)と側面の小窓に描かれた絵の上には水晶をはめ、まるで額絵のよう。沈香(じんこう)を用いた箱は、当時は見るだけではなく、香りも楽しまれたことでしょう。
奈良三彩の鼓の胴は珍しさ随一
磁鼓(じこ)
南倉114、長さ38.3㎝、口径22.0㎝、腰径10.9㎝
緑と白と茶色の、いわゆる奈良三彩の鼓の胴。轆轤(ろくろ)が右回転であることから日本製と考えられています。唐三彩と比べて全体に稚拙といわれる奈良三彩ですが、本品はそのなかではかたちの整った文様を呈する優品です。鼓の胴は木製が一般的ですが、まれに陶製があり、国内では京都府木津川市の馬場南遺跡からは須恵器製の鼓胴が見つかっています。唐楽で使われた細腰皷(さいようこ)と考えられ、使用時は両端に革を張って打ち鳴らされました。いったいどんな音がするのでしょうね。
北倉では異色の経歴をもつ古代楽器
新羅琴(しらぎごと)
北倉35、全長154.2㎝、幅(上方)30.6㎝、羊耳形幅37.0㎝
朝鮮半島が起源の新羅琴は、伽耶琴(かやきん)とも呼ばれる12絃の琴(きん)。一番の特徴は羊の耳のようなかたちをした緒留(おど)めです。本品は弘仁14年(823)2月19日に持ち出された「金鏤新羅琴」に代わって、同年4月14日に納められたもの。聖武天皇ゆかりの品が多い他の北倉の宝物とは、伝来が異なる品です。演奏時は槽(そう)の片側につく懸け紐(現在のものは新補)を首に懸けて演奏したのだとか。緒留めはケヤキ材、胴はキリ材で作られています。
鋏の使い道の謎は解けた!
白銅剪子(はくどうのせんし)
南倉33、長さ22.6㎝、重さ183.6g
実は長らく用途不明の道具だったこの鋏(はさみ)。韓国慶州市の月池(ウォルチ=雁鴨池〈アナプチ〉)で、ほぼ同じかたちの鋏が出土し、刃の部分に半輪形の金具がついていたことから、灯明の灯芯切りのための鋏と判明しました。灯芯をパチンと切ると鋏が閉じて輪が円をつくり、切り取った灯芯が落ちない便利な仕組みです。その後、南倉の残欠中から半輪形の金具が発見され、鋏は元の姿を取り戻しました。どんな欠片(かけら)も捨てることなく保存された、正倉院宝物だからこそよみがえった奇跡の鋏です。
洗練された色とかたち
犀角如意(さいかくのにょい)
南倉51、縦58.0㎝、掌の幅5.9㎝
法要でお坊さんが手にした法具〝如意〟。手のように見える部分に犀角が用いられるほか、金、水晶、真珠、象牙、紫檀など貴重な素材がふんだんに用いられた豪奢な品です。無駄のないスマートなフォルム、そして青と赤に染め花鳥文を刻む撥鏤(ばちる)板を交互にはめ、その中央にも赤と青が交互になるように伏彩色をした水晶をはめるなど、色彩感覚も抜群。金と象牙がすっきりと全体を引き締めています。奈良時代の法要の華々しさが偲ばれます。
★正倉院展、ゆっくり楽しむなら…
その年に出陳された宝物と次に会えるのは早くても10年後という「正倉院展」。日中はお目当ての宝物を観にくる人で、大混雑が予想されます。人だかりもなく、本当にじっくり観覧できるのは閉館前の30分ぐらい。このゆゆしき問題を解決してくれるのが、当日の夕方から当日券売り場で販売される「オータムレイトチケット」! 月~木は16:30以降(チケット販売は15:30~)、金~日・祝日は18:30以降(チケット販売は17:30~)に入場でき、料金もとってもお得です。とくに金・土・日の19:00~20:00はたいへん見やすくなっていますよ。今年は〝夜の正倉院展観覧〟と洒落込んでみてはいかが? オータムチケットの購入にも列はできるので、博物館には早めに着くようにしてね♪
DATA
会期 |
2018年10月27日(土)~11月12日(月) |
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会場 |
奈良国立博物館 東新館・西新館 |
開館時間 |
9:00~18:00 |
観覧料金 |
一般1,100円 (前売・団体1,000円、オータムレイト800円) |
問い合わせ先 |
奈良国立博物館 TEL050-5542-8600 |
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