室生古道~龍神伝説の地へ~ 龍の棲むという龍穴を訪ねて
掲載日:2012年3月30日
高野山が女人禁制であった時代にも、女性の信仰を受け入れてきた“女人高野”室生寺。室生寺から約1kmの室生川上流には龍神を祀る龍穴神社があり、奈良時代末期の寺の創建にも龍神が関わっていると伝えます。伊勢本街道から分岐する室生古道を歩き、龍神伝説残る龍穴を訪ねます。
榛原駅~(バス利用)~高井バス停~仏隆寺~唐戸峠~室生の里~龍穴神社~龍穴~龍穴神社~室生寺~室生寺前バス停~(バス利用)~室生口大野駅(徒歩約5時間)
近鉄榛原駅からは上内牧行き、曽爾村役場行きバスで室生古道の西の起点、高井に向かいます。高井バス停で下車し国道369号(伊勢本街道)から分かれて「室生古道」へ。古道への分岐点には道標が建っています。周囲の静かな山里の風景を眺めながら、道は緩やかに仏隆寺へ登っていきます。仏隆寺は嘉祥3年(850)に空海の高弟・賢恵が創建したと伝わる古刹で、室生寺の南門の寺とも呼ばれる末寺です。境内へ続く階段の上り口に立つ千年桜が印象的で、秋には彼岸花の名所としても知られています。
仏隆寺からは山道を一息に登れば唐戸峠です。峠からは宇陀方面の展望がよく開け、小さな祠には、修験道の開祖である役行者(えんのぎょうじゃ)を祀ります。峠から室生寺へは、途中、神秘的な雰囲気を漂わせる新カラト池を見ながら、舗装された林道を川沿いにのんびり下ります。ところどころ、道ばたに石仏が姿を見せはじめたら、室生の里まではあと一息です。里の入り口には腰折れ地蔵があり、腰の部分が割れた痛々しい姿ながら、地元の人たちに大切に祀られています。またしばらく先には樹齢300年の西光寺のシダレザクラが見えてきます。春の美しさを想像するだけで楽しみな、樹齢300年のみごとな枝ぶりです。さらに下っていくと室生寺の伽藍の一部が見えてきます。山の斜面から眺めた室生の里は、春には桜、秋には紅葉が美しく、晩秋には熟れた柿の実が秋の陽に照ります。日本の懐かしい風景を今に残す、心落ち着く村里です。
里まで下ったら上流の龍穴神社を目指します。神社付近の道沿いには神木の夫婦杉があり、その巨大さに驚かされます。境内にも杉の巨木が何本も天に向けてそびえるように立っていて、威厳に満ちた独特の雰囲気を醸し出しています。龍穴神社の奥宮である龍穴は、正しくは「吉祥龍穴」といい、参拝の際には神社の社務所で淨衣を借りてお参りします。龍穴へは一度車道に出て、室生川沿いを上流に向かって歩きます。500mほど行くと龍穴への道を示す看板があり、そこから坂を登ります。周囲はうっそうとして山深く、野生の鹿に出会うこともしばしば。さらに進むと巨石が2つに割れている「天の岩戸」があります。ここも神社の神域であり、天照大神の伝説が残っています。
吉祥龍穴の遙拝所(ようはいじょ)の鳥居からは、地道の階段を下ります。やがて右手に静かな流れのなめ滝が姿を見せ、その左手にぽっかりと口を開けているのが吉祥龍穴です。断崖の下にあり、周囲の風景すべてが龍にまつわるイメージを強く印象づけ、今でもここで雨乞いの神事が行われています。かつて奈良の猿沢の池に棲んでいた龍が、清浄の地を求め室生へ移ってきたという伝説も残り、遠い都と室生とのつながりについても想像をめぐらすことができます。龍穴に別れを告げたら今来た道を戻って室生寺へ。室生寺前から室生口大野駅へ向かうバスは本数が少ないので、あらかじめバスの時刻を確認されておくことをお勧めします。
室生古道入り口の道標 | 仏隆寺千年桜 | 唐戸峠からの宇陀方面の眺め | 西光寺の枝垂れ桜 |
室生川の流れ | 巨木そびえる龍穴神社 | なめ滝 | 吉祥龍穴 |
室生寺 |
仏隆寺―大和茶発祥の地と奈良県最長寿の桜―
奈良県東北部の大和高原ではお茶の栽培が盛んで、奈良の特産品「大和茶」として知られています。桜や彼岸花で名高い仏隆寺は、大和茶発祥の伝承地でもあります。空海が唐から持ち帰ったお茶を栽培したと伝えられ、その石碑が建っています。
仏隆寺を訪ねて最初に目にとまるのは、何といっても樹齢約千年、奈良県でもっとも長寿の千年桜でしょう。巨樹の堂々たる風格に、千年という時の長さが感じられます。春は桜を見ようという車で、狭い道が渋滞することもよくあります。高井バス停からは歩いて約40分。ぜひ室生古道の雰囲気を味わいながら、歩いて桜に会いに行ってみてください。
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