北山辺の道~「影姫あはれ」影姫伝説の地へ~ その1 天理駅から帯解駅まで
掲載日:2012年2月1日
日本書紀の中の歌謡として名高い歌に「平群鮪(へぐりのしび)と影姫」の悲恋を歌ったものがあります。平群鮪と影姫は相思相愛の仲でしたが、その頃皇太子であった後の武烈(ぶれつ)天皇が影姫に求婚したことから、悲しいお話が始まります。鮪が殺された平城山(ならやま)まで影姫が訪ねていったという「北山の辺の道」を2回に分けて歩きます。
天理駅~天理教本部~石上神宮~布留の高橋~名阪国道~白河ダム~弘仁寺~清澄の里~帯解駅(約4時間)
巨大古墳がたくさんあることで知られる天理市。市の中心部には天理教の本部があり、全国から訪れるたくさんの人々で賑わいます。この天理の街を東に進むと、石上(いそのかみ)神宮があります。この地は古くは布留(ふる)といい、物部氏の武器庫的な役割を果たしていたようです。影姫はその物部氏の娘です。石上神宮を過ぎその北側に出ればすぐに布留川が流れ、そこに「高橋」がかかっています。橋は川面からずいぶん高い位置に造られています。
山の辺の道には東海自然歩道の道標が立っているので迷うことはありません。豊日(とよひ)神社の横を通り山沿いに進みます。天理教施設と山際の間を抜けて、道はどんどん北に向かいます。途中、車道と合流しますが、再び車道から離れて、のどかな丘を歩くコースになります。周辺は関西の交通の大動脈ともいえる名阪国道に近い場所とは思えないような静けさに包まれています。
しかし、丘を登るにつれ先ほどとは空気が一変、車の音が聞こえてきます。名阪国道です。ものすごい交通量で、大型車の走る音が谷間に鳴り響いています。国道の下をくぐり、道はまた上り坂になります。目の前がだんだん開けてくると白川ダムが見えてきます。白川ダムの周囲には運動施設や公園が整備され、散歩コースにピッタリです。
ダムの横の古墳公園を見てしばらく車道を歩きます。やがて道から離れ長い階段を登りきれば弘仁寺です。弘仁寺は虚空蔵菩薩を本尊とし、13歳になる子どもの厄払いと知恵の授かりを願う「十三参り」で知られます。山間に静かにたたずむお寺ですが、山門をくぐれば堂々とした本堂が目に飛び込んできます。境内で一休みしたら、登ってきた道と反対側へ下りましょう。この辺りは清澄(きよすみ)の里と呼ばれ、のどかな里山の風景が広がります。ここからさらに東の山中へ進めば、紅葉で名高い正暦寺もあります。
車の道を円照寺に向かって歩きます(円照寺は山門の外からのみ見学可です)。天理市から奈良市に入るにつれ、どんどん住宅が増えてきます。住宅地を抜けると国道169号の東側に美しい青垣が広がり、北端の方には若草山も見えます。さらに道を西に向かって進めば古い帯解の集落です。帯解の駅は、その静かな町並みのなかにあります。
大きな天理教本部の建物 | 静かな石上神宮 | 布留の高橋 | 静かな道散歩道 |
車の通りが激しい名阪国道 | 広々とした白川ダム | 弘仁寺 | 清澄の里にある新旧の道標 |
日本書紀の歌謡~影姫あはれ~
石上 布留を過ぎて こも枕 高橋を過ぎ ものさわに大宅過ぎ 春日 春日を過ぎ 妻籠もる小佐保を過ぎ 玉げに飯さへもり 玉もひに水さへ盛り 泣きそほちいくも 影姫あはれ
訳:布留を過ぎ、高橋を過ぎ、大宅を過ぎ、春日を過ぎ、小佐保を過ぎて、泣きぬれて葬列の後を追う影姫がかわいそうなことよ
この歌は影姫が移動するようすを客観的に歌っていますが、その長い道のりと「泣きそほちゆく」ということばで影姫のうちひしがれた姿を想像させ、その悲しい気持ちが心にせまってきます。帯解からは遠く若草山が見えます。恋人の突然の死を聞き、泣きながらその地へ向かう影姫の辛さが胸に染みるようです。
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