第120回 勝手に奈良検定
問題1 |
写真は東大寺の手水舎で見かけた彫り物です。ワシが子どもをまさに〝わしづかみ〟にしているこの光景。ワシがさらった子どもは、後の誰でしょう。 1.良弁 |
正解は、1の良弁(ろうべん)。
写真は東大寺二月堂の南側の階段を上った突き当りにある、手水舎に彫られた彫り物です。ワシがさらった子どもは、後年、東大寺別当を務める良弁で、彫り物は良弁に関わる物語のワンシーンを表わしています。むかし、近江の国に、ある夫婦が暮らしていました。夫婦には子どもがなく、観音様に毎日お願いをしていたところ、やがて男の子が生まれました。ところがある日、ワシが子どもをさらってしまいます。子どもは二月堂の杉の木に置き去りにされましたが、僧侶に助けてもらい、やがて名僧・良弁となりました。30年間子どもを探し続けた母親は、この杉の木の下で我が子と再会を果たします。お話にちなみ、杉の木は「良弁杉」と呼ばれています。
実忠は東大寺の「お水取り」の行法をはじめたと伝える僧で、3月5日には忌日法要も行われます。公慶は江戸時代の大仏殿復興に尽力した僧です。青衣の女人は、お水取りの法要を行う僧侶の前にあらわれた幻の女性と言われています。
問題2 |
奈良に春を呼ぶといわれ、3月1日から本行がはじまる東大寺の「お水取り」。では、この行が行われるお堂は、次のうちどれでしょう。 1.大仏殿 |
正解は、2の二月堂。
東大寺を構成するたくさんの伽藍(がらん)。大仏殿や二月堂、三月堂など、本尊を祀り、本尊を供養する法要が営まれるお堂を「仏堂」といいます。東大寺には、法要がいつ行われたかに由来する仏堂名をもつ建物がいくつか伝えられています。二月堂は「お水取り」「お松明」の名前で親しまれる修二会(しゅにえ)が行われる仏堂です。修二会とは、本尊十一面観音に罪を悔い祈る法会(ほうえ)で、旧暦2月に行われました。そのため修二会を行うお堂を「二月堂」と呼ぶようになったのです。
同様に三月堂は、旧暦3月に法華会を行ったため、「三月堂」「法華堂」と呼ばれるようになりました。また四月堂は、4月に「法華三昧」を行うことからつけられた呼称で「三昧堂」とも呼ばれます。ちなみに正月に行われる「修正会(しゅしょうえ)」は、東大寺の金堂である大仏殿で、廬舎那仏を前に行われています。
問題3 |
修二会を詠んだ松尾芭蕉の名句「水取りや氷の僧の《 》の音」。では《 》に入る言葉は次のどれでしょう。 1.数珠 |
正解は、4の沓。
江戸時代の俳人・松尾芭蕉は、「菊の香や奈良には古き仏たち」「若葉して御目の雫拭はばや」など、奈良各地を歩いては、その土地土地にちなんだ数々の句を詠みました。現在、東大寺二月堂の下にも芭蕉の句を刻む石碑が建ち、「水取りや 氷の僧の 沓の音」の句が刻まれています。しかし碑の文字は、この句が誤って伝えられた「籠りの僧」となっており、かつての〝どちらが正しいか〟という論争の名残りを見るようです。
芭蕉も詠んだ沓の音とは、二月堂内でお坊さんたちが履く履物の音です。ダンダン、ダダダッと、お堂の床を踏み鳴らす音は修二会ならではの印象的な音です。修二会は音の法要と言っていいほど、数々の音に彩られています。数珠の音にはじまり、高低さまざまな音色の法螺貝、役職ごとに音色の異なる鈴など、音の競演を楽しむことができます。