第92回 勝手に奈良検定
問題1 |
ほんのり色づき始めた紅葉が伽藍に映えるこのお寺、さて、何寺でしょう。ヒントは立地をうかがわせる坂と階段です。 |
正解は、壷阪寺。
壷阪寺は、文武天皇の大宝3年(703)、元興寺の弁基上人(べんきしょうにん)によって開基されたと伝えます。養老元年(717)には元正天皇より八角円堂が建てられ、南法華寺の正式寺号を賜りました。桜井市の長谷寺とともに、古くから観音霊場として栄えた名刹で、西国三十三ヶ所観音霊場の六番札所でもあります。
高取城へ続く山の中腹に位置しているため、境内は起伏が大きく、階段や坂が多く設けられています。そのため歩くごとに、高い方に位置するお堂や大きな白亜の仏像が見え隠れしたり、お堂の重なりを楽しめたりと、平地の寺院にはない山岳寺院ならではの拝観の楽しみを味わうことができます。大和盆地やそれを取り囲む山々を一望できるのも、このお寺ならではの眺めでしょう。
高さ20mの大観音石像や長さ8mの大涅槃石像、高さ15mの大釈迦如来石像などは、南インドのカルカラの3億年前の古石で彫刻され、分割されて日本に運ばれたもの。インドとの交流深い壷阪寺では、11月17日の11時からは、インドの古典音楽を紹介する「天竺音楽祭」が開催される予定です。これからがベストシーズンの高取山(高取城跡)へのハイキングとあわせて、訪ねてみてはいかがでしょうか。
問題2 |
明治31年、奈良市内を走る新しい鉄道が開通しました。その通称は、さて次のどれでしょう。 1.鹿鳴鉄道 |
正解は、3の大仏鉄道。
大仏鉄道は明治31年に開通した鉄道で、明治40年、わずか9年で廃線となったために、「幻の大仏鉄道」とも呼ばれます。運営したのは私鉄の関西鉄道株式会社で、丘陵地も含む加茂―奈良間8.8㎞を直接結びましたが、廃線・国有化後は、加茂―木津―奈良と平坦な土地を走る関西本線となり、現在もその路線が使われています。
大仏鉄道の奈良側の駅は「大仏駅」で、現在の奈良市法蓮町にある興福院の参道の南につくられました。駅は広く、佐保川に接するあたりまでが構内だったといいます。現在その南端にあたる場所には、大佛鐵道記念公園がつくられ、動輪のモニュメントが置かれています。機関車は真っ赤に塗られた電光号(いなずまごう)がよく知られ、マッチ箱のような客車と貨車を引いて走りました。路線の最大の難関は黒髪山越えでした。1000mで25m登るという急勾配で、ときには停まってしまうこともあったようです。木津を経由する平坦な路線は、この難所越えを避け、燃料を節約するためでもありました。
大仏鉄道の遺構とその関連遺物は、いまも随所に見ることができます。加茂駅から出発し、大佛鐵道記念公園まで歩くコースは、5時間ほどのちょうどいいハイキングコースです。みどころは、燃料を貯蔵した「ランプ小屋」、現在の関西本線と並行している大仏鉄道の「軌道跡」とそれを利用して設置されている蒸気機関車C57号(通称「貴婦人」)、築堤の下を行き来するために設けられたレンガ製の「隧道(ずいどう)」や「橋台」などたくさん。また途中、日本の原風景を思わせる里山の風景が楽しめます。この秋、お出掛けになられてはいかがですか。(参考文献『大仏鉄道物語』(大仏鉄道研究会)、「月刊大和路ならら2013年11月号 郷愁の大仏鉄道」)
問題3 |
「庭園」「楼門」「運慶」の3つのキーワードから連想される、奈良県の紅葉の名所といえば、さて、どこでしょう。 |
正解は、円成寺。
柳生街道沿いの名刹・円成寺は、万寿3年(1026)、命禅(みょうぜん)上人が十一面観音を祀ったのが始まりと伝えます。仁平3年(1153)に寛遍(かんぺん)僧正が東密忍辱山流(とうみつにんにくせんりゅう)を興して、繁栄しました。桜、新緑、夏の蓮、雪景色と四季それぞれのたたずまいを味わえる円成寺ですが、とくに紅葉のころは、赤や黄に染まった木々が境内を錦に彩り、池を挟んで見上げる楼門は、まさに極楽浄土の入口といっていいほどに美しいものです。
1つめのキーワード「浄土式庭園」は、国の名勝に指定されています。浄土式と舟遊式を備えた平安時代に築庭された寝殿造り系庭園で、池そのものについていえば、夏の蓮のころが圧巻です。濃い緑の葉と、涼しげなピンクの花弁が、初夏の朝のすがすがしさを満喫させてくれます。池の対岸の石段を上がったところに建つのが、2つめのキーワードである「楼門」です。室町時代、応仁2年(1468)の建造で、重要文化財に指定されています。重厚かつ軽やかな姿で、参拝者を出迎えてくれます。
本堂の阿弥陀堂は両翼に舞台を設けた寝殿造りの建物で、室町時代の文明4年(1472)の再建と考えられています。本尊の阿弥陀如来坐像を安置する厨子を囲む4本の柱には、極彩色の聖衆来迎二十五菩薩が生き生きと描かれ、全国でも珍しい様式となっています。この本堂の前に再建された多宝塔に、3つめのキーワード「運慶」作の大日如来坐像が祀られています。制作は平安時代の安元2年(1176)、のちに仏教彫刻の巨匠となる運慶25歳の作といわれ、その特徴をよく示していますが、はりのある初々しい容姿に若き日の運慶の情熱が感じられるようです。落ち葉の香りに秋めく柳生街道を歩いてみてはいかがでしょう。奈良から柳生までは全コース約21㎞、ゆっくり歩いてほぼ1日のコースです(詳細は「おすすめエリア(滝坂の道・柳生街道)」の記事を参照)。