第80回 勝手に奈良検定
問題1 |
写真は紅葉の名所として知られるあるお寺です。このお寺は、さて、何というお寺でしょう。建物の名前もお答えください。 |
正解は、長岳寺。
建物は鐘楼門。長岳寺は天理市柳本にあり、通称「釜口大師」で親しまれています。天長元年(824)、弘法大師によって創建され、当時は大和(おおやまと)神社の神宮寺だったといわれています。写真の建物・鐘楼門は、創建当初唯一の遺構として知られ、重要文化財となっています。
境内は12000坪もあり、池を中心とした浄土式庭園が造られ四季折々に美しい姿を見せます。とくに秋は池の周辺が紅葉で彩られ、1年でもっとも美しい季節です。紅葉の錦に見え隠れする重厚な造りの本堂や鐘楼門、池の周囲にたたずむ鎌倉~江戸時代の石仏や石塔…。境内の高低差をたくみに利用して作庭された庭は、まるで秋の野辺を歩いているような錯覚に陥ることでしょう。
11月30日まで、長岳寺では寺宝の「極楽地獄絵」が公開されます。リアルに描き出された地獄のありさま、そして美しい極楽浄土の世界。この間、住職による絵解きも行われ、絵が描かれた当時の宗教観をわかりやすく説明してくれます。
問題2 |
11月14日の大神神社の酒まつりの日、拝殿につりさげられる大きな物といったら、さて何でしょう。 |
正解は、杉玉。
毎年11月14日に行われる大神神社の醸造安全祈願祭は、通称「酒まつり」と呼ばれ、今年1年の酒造りの安全を祈念して全国から酒造にかかわる人々が集まるお祭りです。崇神天皇の時代、国に疫病が流行ったときに、高橋活日命(いくひのみこと)が三輪の神にお酒を供えたところ、疫病が鎮まり国も栄えたという伝承から、大神神社は酒造りを司る神として知られています。また高橋活日命は日本最古の杜氏(とうじ)であるとされ、同じ日に境内の活日神社でもお祭りが行われます。
このお祭りに合わせて拝殿に吊り下げられるのが大きな杉玉です。まず芯となる大きな竹籠を吊るし、そこに杉の葉を隙間なく放射状に挿し、最後に杉の葉の凹凸を整えて作られますが、出来上がりの大きさは直径約1.5m、重さは約150kg。大人が4人がかりでないと運べないほどの大きさです。大勢の手で拝殿に吊るしたあと、最後に巫女が「三輪明神」「志るしの杉玉」と書かれた木の札を下げて準備が整います。全国各地で杉玉は作られていますが、この札に書かれた言葉こそが大神神社の杉玉であることの証となり、お参りに訪れる酒造関係者には、同じ木札が下げられた30cmほどの小ぶりの杉玉が授与されます。
なお拝殿の大きな杉玉は、お祭り前日の13日の朝9時頃に吊り下げられます。14日、拝殿で舞われる「うま酒みわの舞」は、ご神木である杉の葉を手にして4人の巫女が舞うたおやかな舞で、舞い始める前にお神酒をお供えします。また境内ではお酒の振る舞いが行われます。2012年は11月10日(土)、11日(日)、14日(水)となっています。
問題3 |
茶人、片桐石州が父の菩提を弔うために建立した、美しい庭で知られる奈良県のお寺といったら、さてどこでしょう。 |
正解は、慈光院。
大和郡山市にある慈光院は、茶道をたしなむ方なら一度は訪ねたいお寺でしょう。この寺を建立した片桐石州(1605~1673)は、実は江戸時代前期に活躍した大名です。本来の名前は片桐貞昌といい、大和小泉藩の2代目藩主の地位にありました。4代将軍徳川家綱に茶道を教えた当代一流の茶人で、「分相応」の茶道をよしとし、家綱以降、徳川将軍家は代々石州流を学んでいます。
境内は全体が茶席空間としてデザインされ、創建から約350年を経た今でも建造当時そのままのかたちで残っています。お寺の山門である茅葺(かやぶき)の茨木門(いばらきもん)から建物までの参道の曲げ方、座敷と庭園の位置関係など、茶人石州のたくみな演出が施された境内は隙がなく、なおかつ心地よくお茶を楽しめる空間として設計されています。書院の鴨居が低く感じるのも、座って庭を愛でながらお茶をいただくときにちょうどよい高さに計算されているからです。
また書院前に広がる枯山水庭園は、當麻寺(たいまでら)の中ノ坊、吉野山の竹林院とともに「大和三名園」に数えられています。庭に立てば、眼下に広々とした風景を一望できます。伽藍や仏像拝観を目的に出かけることの多い奈良のお寺にあって、慈光院はまさにじっくりと庭を鑑賞できる数少ないお寺の1つです。