第79回 勝手に奈良検定
問題1 |
この秋開催される、第64回正倉院展(10/27〈土〉~11/12〈月〉)。今回の出陳品の1つ「瑠璃坏(るりのつき)」は美しい色が印象的です。ではこの青色は、ガラスの主成分である珪砂(けいしゃ)に、酸化鉄と何を混ぜて発色させたものでしょうか。 |
正解は、コバルト。
ガラスは石英の細かい粒からなる珪砂を溶かして形をととのえ、冷やして固めたものです。メソポタミアで紀元前20世紀前後に作り始められ、エジプトやローマ帝国、ペルシャなど、中近東を中心に発達、やがてステップルート(草原の道)や中央アジアルート、南海ルートなどを通って中国や朝鮮半島経由で日本にわたってきました。
この瑠璃坏は、ササン朝ペルシャの工房で7世紀前半に作られたと考えられるもので、外側につけられたリング状のガラスが特徴です。現在実物として発見されている同じような形態の器は世界に3例しかなく、とくに正倉院の瑠璃坏は、リングの数も多く、たいへんな技術を要して作られています。
正倉院の瑠璃坏の透明で深い青色は、コバルトと酸化鉄による発色です。ガラスを作るときには、原料の珪砂を早く溶かすために酸化ナトリウムや石灰ソーダ、あるいは鉛を加えます。前者はソーダ石灰ガラス、前者は鉛ガラスと呼ばれます。ここに着色するために金属酸化物を加えます。たとえば、紫を出すにはマンガンと銅とコバルト、緑を出すにはクロムと鉄と銅、赤なら金と銅、コバルト、セレン、カドミウムなどを加えます。正倉院の瑠璃坏は、コバルトと酸化鉄などにより青く発色したソーダ石灰ガラスです。
問題2 |
正倉院の宝物にはいろいろな動物が描かれています。この動物は、さて何というでしょう。 |
正解は、花鹿(はなしか)。
正倉院宝物に描かれている文様は「正倉院文様」と呼ばれ、植物や動物などたくさんの種類が知られています。なかでも動物は実在の生き物から想像上の生き物まで、自由に、そしてたいへん精緻に描かれています。
実在の動物では獅子やラクダ、ヒョウ、トラ、ヒツジ、カモシカ、水牛、ゾウ、サイ、ウマ、サル、キツネ、ウサギなど、鳥ならクジャク、インコ、オウム、オシドリ、タカ、ツルなどです。想像上の動物には、龍、天馬、麒麟(きりん)、唐獅子、霊魚、霊亀など、想像上の鳥には鳳凰、花をくわえた花喰鳥(はなくいどり)、人頭をもち美しい声で鳴く迦陵頻伽(がりょうびんが)などがいます。
花鹿は、同じく想像上の動物で、頭の上に花を咲かせたような角をもつ花鹿も、よく見られる文様の1つです。もともとは中国の北方に伝統的な図柄で、唐の時代に流行しました。花に宿る力強い生命力が繁栄を意味し、吉祥をあらわす動物です。今年の正倉院展でもぜひ探してみてはいかがでしょう。
問題3 |
正倉院に最初に納められたのは、天平勝宝8歳(756)年6月21日です。この日は国を挙げて大事な法要が営まれた日でした。さて、それはいったい、何だったでしょうか。 |
正解は、聖武天皇の四十九日。
天平勝宝8歳(756)6月21日は、聖武天皇の四十九日が営まれた日でした。正しくは七七忌(しちしちき)と呼ばれます。聖武天皇は同年の5月2日に亡くなり、この日がちょうど四十九日にあたります。聖武天皇の皇后であった光明皇后は、その冥福を祈り、天皇の遺品をすべて大仏に奉納しました。宝物と一緒に納められた宝物目録である「国家珍宝帳(こっかちんぽうちょう)」には、名称や数、大きさなどが詳しく書かれています。奈良時代、天平宝字2年(758)までの間にあと4回献納が行われています。
その後、長い年月の間には、正倉院宝物から弓などの武器が持ち出されたり、出された宝物ではなく別のものが戻されたり、新たに献納されたりと、いろいろな変遷がみられます。また足利義政や織田信長などは、名香「蘭奢待(らんじゃたい)」を切り取らせ香りを楽しんだりしました。ほかにも火災や焼打ちなど、幾多の歴史の波を乗り越えて、正倉院宝物はいまも私たちの前に燦然と輝きを見せています。
正倉院宝物は、光明皇后が聖武天皇の遺愛の品を納めたことに始まります。皇后は「国家珍宝帳」のなかで、このように述べています。「天皇の遺愛の品を目にすると、天皇のことが思い出され、心がくずれてくだけてしまう」。正倉院宝物は、后であると同時に1人の女性でもあった光明皇后の、深い愛と悲しみの心から生まれた宝物なのです。