第65回 勝手に奈良検定
問題1 |
何か訴えるようなつぶらな瞳。これは奈良市内のある神社に最近復活したもので、日常よく見かける鳥です。さて、この神社はいったいどこでしょう。この鳥の種類もお答えください。 |
正解は、元石清水八幡宮の鳩。
元石清水八幡宮は、奈良市の古刹、大安寺のすぐ南に鎮座する神社です。大同2年(807)に大安寺の僧侶だった行教が、宇佐八幡宮を遷して大安寺の鎮守としたことに始まるといわれます。祭神には仲哀天皇、神功天皇、応神天皇を祀ります。室町時代創建の中門は、中世の神社四脚門(よつあしもん)の様式を伝えるたいへん貴重な建造物です。
ところで八幡神社といえば、神様のお使いは鳩。そのため、鳩を奉納して願を掛ければ願いが叶うといわれ、拝殿には階段脇や欄干の上など、置ける場所という場所に素焼きの「八幡鳩」がずらりと並べられています。その数およそ1000羽。拝殿前に立つとたくさんの鳩に見つめられ、鳥好きにはたまらないスポットです。
ここ20年以上途絶えていた鳩の奉納でしたが、2010年、20数年ぶりに復活し、社務所で授与が行われています。絵馬に願いを書き、鳩と一緒に奉納すると、1週間の祈祷ののち、本殿に祀られます。以前のリアルな鳩から、ゆるキャラを思わせる、まんまるい可愛らしい鳩にリニューアル。キュートな姿が人気を呼んでいます。神社の詳細はこちらへ。
問題2 |
「○○の 秋野の上の 朝霧に 妻呼ぶ雄鹿 出で立つらむか」 |
正解は、高円(たかまど)。
この歌は、「高円の 秋野の上の 朝霧に 妻呼ぶ雄鹿 出で立つらむか」(巻20-4319)。歌の意味は、「高円の秋の野に流れる朝霧のなかに、妻を呼ぶ雄鹿が今、出で立つことだろうか」で、絵画的な美しさをもつ歌です。見えない霧の中で誰かを呼ぶ孤独を、鹿になぞらえて詠んでいます。
歌の作者は大伴家持。家持はこのとき高円の秋をテーマに、6首を詠みました。その注に
「兵部少輔(ひょうぶのしょうぶ)大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)、独り秋の野を憶(おも)ひて、聊(いささ)かに拙(つたな)き懐(おもひ)を述べて作れリ」
と書いています。当時家持は、天平宝字元年(757)に起こった橘奈良麻呂の乱の余波で、報復人事に遭ったばかりでした。支援してくれる人もなく、かつて聖武天皇の離宮が置かれた高円を懐かしみ、孤独の思いを抱きながら詠んだ歌といわれています。
高円山では、毎年8月15日、「大文字送り火」が行われます。西側斜面に静かに浮かび上がる「大」の火文字は、市街のいろいろなところで見ることができます。また山を仰ぐ奈良公園の飛火野では、戦没者の慰霊祭が行われます。高円山へは、奈良奥山ドライブウェイ(有料道路)が通っています。この歌を刻んだ歌碑のある高円山展望休憩所からは、奈良市街をはじめ、はるか南の山々まで一望できます。
問題3 |
奈良県南部、吉野郡十津川村には、「風流(ふりゅう)念仏踊り」の流れを汲む盆踊りの一種、「十津川の大踊り」が、いくつもの地区に受け継がれています。そのうち、平成元年に、3つの地区の大踊りが国の重要無形民俗文化財に指定されました。さて、その3地区とは、いったいどこでしょう。 |
正解は、「小原(おはら)」「武蔵」「西川(にしがわ)」の3地区。
大踊りは、現在では小原地区から順に、8月13日、14日、15日と、日をずらして開催されています。「大踊り」の特徴は、2本の扇子を使い、ある者は太鼓を提げ、ある者は灯籠(竹飾り)を持って踊ることです。しかし、地区ごとに踊りの隊列の組み方や動き方、太鼓の持ち方、灯籠の形など、少しずつ異なっており、それぞれに味わいがあります。いずれも音頭取りの唄にあわせ、哀調たっぷりに、夜遅くまで続きます。
そもそも盆踊りは、平安時代末期の聖(ひじり)、空也上人が始めた「踊り念仏」までさかのぼるといわれます。しかし人々には、念仏よりも、音楽や踊る行為のほうが広く受け入れられました。やがて、人々の目や耳を楽しませる「風流(ふりゅう)」の趣向が広まっていくと、「踊り念仏」は念仏よりも踊りを重視した「念仏踊り」に変わり、趣向を凝らした芸能に発展していったのです。
「十津川の大踊り」は、京の都や奈良で流行った念仏踊りが、熊野古道や大峯奥駈道を通り、修験者や僧侶などによって伝わったものと考えられています。歌詞や曲調にわずかに宗教性を残す一方、女性による優雅な扇踊りや、きらびやかな灯籠を登場させるなど、風流の趣きも感じさせてくれます。紀伊半島の奥深くにある十津川村は、大踊りを楽しむなら宿泊するのがオススメです。深夜まで踊りを楽しんだら、翌日は山や川、温泉など、大自然の恵みを思い切り満喫する。子どものころに返ったような夏休みが過ごせます。