第53回 勝手に奈良検定
問題1 |
平城遷都1300年を記念して、9月1日から100日間、金峯山寺(きんぷせんじ)の本尊「金剛蔵王権現像(こんごうざおうごんげんぞう)」が御開帳になります。古来山岳宗教を仏教に取り込み、金峯山寺の開祖・役行者(えんのぎょうじゃ)が始めた独自の宗教は、何と呼ばれるでしょう。 |
正解は、修験道(しゅげんどう)。
森羅万象に神霊が宿るとする日本古来の山岳信仰と仏教が習合し、日本独特の混淆(こんこう)宗教として生み出されたのが修験道です。役行者は、深山幽谷に分け入って厳しい修行をすることで、超自然的な「験力(げんりき)」を得ることができ、人々を悩みや苦しみから救い出す蔵王権現を感得したと言われています。その姿を桜の木に彫り、山上ヶ岳と吉野山にお堂(蔵王堂)を建てて祀ったのが金峯山寺の始まりです。
金峯山寺の本堂・蔵王堂は、安土桃山時代の建立で、高さ34m、四方36m。本堂に安置される金剛蔵王権現像3体は、天正20年(1592)の蔵王堂再建以来、四百数十年にわたり鎮座する日本最大の秘仏です。高さ約7m。三尊の背後にある赤い火焔(かえん)は仏の智恵、青い身体は仏の深い慈悲を現し、全身は悪魔を払う忿怒(ふんぬ)の形相を表しています。
三尊は、釈迦如来、千手観世音菩薩、弥勒菩薩を本来の姿とする変化身で、それぞれ過去・現在・未来の三世(さんぜ)にわたる守護仏といわれます。9月1日から12月9日までの100日間、「金剛蔵王権現像-金峯山寺の特別な百日-」と題し、秘仏・金剛蔵王権現像が特別開帳されます。
問題2 |
吉野川を見下ろす断崖絶壁に建つこの神社では、毎年旧正月14日に美しい歌笛と「国栖奏(くずそう)」が奉納されます。天武天皇を祭神とするこの神社は、何という名前でしょうか。 |
正解は、浄御原神社(きよみはらじんじゃ)。
古代、吉野といえば吉野川沿岸地域を指しました。古事記や日本書紀によると、応神天皇が吉野の宮(宮滝)に来られたときに、国栖人が夜酒と歌舞で天皇をなぐさめたとあり、これが国栖奏のはじまりといわれています。その後、壬申(じんしん)の乱で大海人皇子(おおあまのおうじ)が吉野で挙兵したとき、国栖の人は皇子を支援し、国栖奏を奏したといいます。以後毎年旧正月14日に、天武天皇を祀る浄見原神社で奉納され、奈良県無形民俗文化財に指定されています。
国栖奏の奉納の当日は、まず浄見原神社の小さな舞台奥に神饌(しんせん)が供えられます。腹赤魚(うぐい)、酒(一夜酒)、土毛(根芹、木の実、栗、かしの実)、毛(かえる)で、これらはどれも昔のごちそう。宮司さんの祝詞のあと、笛翁(ふえのおきな)、鼓翁(つづみのおきな)、舞翁(まいおきな)、歌翁(うたおきな)が歌舞を奏します。
またこの地には、犬を飼わないという言い伝えがあります。大海人皇子がこの地に逃げてきた時、追手が犬を連れてやってきましたが、皇子をかくまった翁が犬を退治したという故事によるもので、浄見原神社に狛犬がないのは、こうした民話によるともいわれています。
問題3 |
秋の訪れを伝えるこの花は、秋の七草の1つで、8月のお盆の頃に咲き始め、根や花を利用したものは吉野地方の特産品ともなっています。いったい何という名前でしょうか。 |
正解は葛(くず)。
葛の花は、小さな赤紫色の花が集まった藤に似た花で、茎に近い方から順に、穂先に向かって咲いていきます。地味で控えめな花ですが、古来多くの歌人たちに詠まれ、親しまれてきました。
山上憶良は、葛を秋の七草の1つに上げています。
秋の野に 咲きたる花を 指折(およびお)り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花(万葉集 巻8-1537)
萩の花 尾花 葛花 撫子(なでしこ)の花 女郎花(おみなえし) また藤袴 朝貌(あさがお)の花 (万葉集 巻8-1538)
『大和志』に「その色潔白、味甚佳し、因て名品となす」とありますが、冬の間に採った葛の根を乾燥させると真っ白の葛粉ができます。葛粉を使った葛餅などは、吉野地方の特産品。葛の根からは「葛根(かっこん)湯」という解熱漢方薬が作られ、葛の花を乾燥させた「葛花(かっか)」は、二日酔いに効くそうです。