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近代化遺産ある記

vol.5 喫茶工場跡事務室(フトルミン工場跡)

掲載日:2014年8月29日

レトロなカフェは元工場!

東大寺戒壇院の北側、緑豊かな場所にひっそりと佇むカフェ・工場跡事務室。昭和50年代中頃まで奈良食品工学研究所として、人々の健康長寿を願う乳酸菌飲料「フトルミン」を製造、食用菌類の研究がされていました。大正14年(1925)に建てられたこの工場、設計・建築は第3回でもご紹介した宮大工の大木吉太郎の手によるもの。研究所の創業者である喜多芳治郎氏が大変懇意にしていた関係で、設計を依頼したそうです。

そうしてできた工場は切妻造りの桟瓦(さんがわら)葺(当初は金属板葺)、小屋組みはキングポストトラス、下見板張りを基調にし、妻面は破風(はふ)を白漆喰(しっくい)壁としたハーフティンバー風に意匠を凝らしています。世界遺産である東大寺の裏手に工場を建てられたとは、今となっては驚きですが、周囲の美観を損ねることなく造り上げた手腕は見事の一言。カフェとして生まれ変わった今も、2人の友情と精神が生きています。

チェックポイント!

カフェスペース

畳敷きの事務室

店内に入ると、当時出荷作業が行われていたコンクリート土間のテーブル席と、靴を脱いで上がる畳敷きの席が…。こちらの座敷、工場操業時は事務室として使用されていました。現代の無機質な事務室とは趣の異なる、日本的な温かみのある空間です。

ギャラリー・研究室

木とガラスで造られたどこか懐かしい空間

古い木造学舎を思わせるギャラリー。白と緑のペンキで彩られたこの場所は、かつて乳酸菌やイースト菌などの菌類の研究や商品開発が行われていました。空き瓶干しや蛇口、瓶底の跡の残る大きな実験台や建築当時の意匠を残した木棚が往時を偲ばせます。

サクションガスエンジン・蒸気滅菌器

丸みを帯びた優美なかたちが味わい深い

工場奥には操業停止時のまま機器が多数残されています。工場動力をまかなうサクションガスエンジン、木製の冷蔵貯蔵庫、煉瓦の耐火壁をもつボイラーなど、稼動当時を伝える貴重な資料となっています(イベント開催時以外は非公開です)。

建てたのはこんな人!

大木吉太郎(おおききちたろう)
明治20年(1887)~昭和46年(1971)

大木吉太郎は郡山藩の御用大工を勤める家に生まれ、上京して夜間学校を卒業。日本橋三越ビルの新築工事、関東大震災後の寺社の修復工事に尽力しました。再び故郷・奈良に戻り、宮大工の棟梁として奈良県を中心とした各地で活躍。社寺の修復のほか、育英高校旧校舎や日本聖公会奈良基督教会、京都市の桃山基督教会、福井県小浜聖ルカ教会などを手がけています。

喫茶工場跡事務室(フトルミン工場跡) DATA

住所 奈良市芝辻町543
アクセス 近鉄奈良駅から徒歩約15分、または近鉄奈良駅から青山住宅行きバスで約5分、今小路下車、徒歩約2分
設計者 大木吉太郎
建造年 大正14年(1925)
一般公開 喫茶スペースのみ
営業日時 金:11:00~18:00、土日祝:9:00~18:00
※ギャラリーはイベント開催時のみ公開
問い合わせ 0742-22-2215
関連サイト 工場跡ホームページ
https://www.kojoato.jp/

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