初夏の宇陀松山(うだまつやま)“エエとこ”めぐり
掲載日:2023年5月25日
宇陀市南部の盆地に位置する松山地区(別称:宇陀松山)。宇陀松山城の城下町であり、冒頭写真の白い花「トウキ」などの薬草や、吉野本葛(※)の生産・販売地として栄えた、商人の町として知られます。地区の中心部は、江戸期からの町家や老舗商店が軒を連ねる「重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区)」に指定。歴史を感じる散策スポットとして、昨今、人気を集めています。今回はこの重伝建地区を中心に、初夏ならではの「エエとこ(良い所)」めぐりをご案内いたしましょう。
※吉野本葛…葛の根から取り出したデンプン(葛デンプン)を、極寒期に地下水で精製・乾燥させた自然食品(葛粉)のこと。葛デンプンのみを主原料とした純度100%の、吉野地方近郊で製造した葛粉が「吉野本葛」で、数ある葛粉の中でも最高級品質とされる。
宇陀松山・重伝建地区で見つけた、初夏の“エエとこ“
【目次】
エエとこ1. 可憐すぎる“薬草”の花々に驚嘆「森野旧薬園」
エエとこ2. あわ雪のような食感の、人気銘菓を買いに「堀井松月堂」
エエとこ3. こだわりの十割蕎麦を、絶品角煮とともにいただく「手打そば&グリル まほろば」
エエとこ4. できたてのもちもち葛スイーツが楽しめる「茶房 葛味庵」
エエとこ1. 可憐すぎる“薬草”の花々に驚嘆「森野旧薬園」
初夏に咲く、「森野旧薬園」の薬草の花々。
(左上から時計回りに)キョウガノコ、ウツボグサ、シチダンカ、ユキノシタの花
冷涼な大和高原地域に位置する宇陀市。山間部の盆地ならではの昼夜の寒暖差を利用して、古くから薬草の栽培が行われてきました。『日本書紀』には、飛鳥時代の推古天皇の治世に、宮廷行事の「薬猟(くすりがり※)」がこの地で行われたことが記されています。
そんな薬草の栽培地としての名残を今にとどめているのが、松山地区に1729年(享保14年)に開設された、わが国現存最古の私設薬草園「森野旧薬園」です。薬園があるのは、同地区で約450年前から吉野本葛を作り続ける「森野吉野葛本舗」の裏山。園内から続くつづら折りの石段の途中や、石段を登り切った場所に畑があり、それぞれに薬草が植えられています。普段の生活では滅多に目にすることがない薬草ですが、ここでは四季を通して約250種類が、種の保存のために栽培されています。5月から6月にかけては、トウキやウツボグサ、ユキノシタ、シチダンカ、キョウガノコといった薬草が、新緑の中に美しい花の競演を見せてくれる時期。その楚々とした佇まいは可憐そのものです。敷地内には森野旧薬園や薬草に関する資料室もあり、そちらを見学してから花々を堪能すれば、さらに理解も深まることでしょう。
重伝建地区にある「森野吉野葛本舗」の店舗と、「森野旧薬園」の入り口(写真右側)
※薬猟…古代の天皇や貴族による春の恒例行事。薬の原料となる鹿の若角や、薬草を採取した。
※生薬…植物の葉、茎、根などや鉱物、動物のなかで薬効があるとされる一部分を加工したもの。
森野旧薬園 詳細DATA |
宇陀市大宇陀上新1880 0745-83-0002 9:00~16:30 不定休 入園料300円 駐車場なし(道の駅宇陀路大宇陀など、近隣駐車場を利用) |
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交通(公共交通機関) | 近鉄「榛原」駅から奈良交通バスで「大宇陀」下車、徒歩3分 |
エエとこ2. あわ雪のような食感の、人気銘菓を買いに「堀井松月堂」
卵の風味と、ふんわり軽い食感が魅力の繊細なお菓子。「きみごろも」1個151円
「森野旧薬園」から重伝建地区の美しい町並みを堪能しつつ、歩くこと5分。右手に、堂々とした佇まいの老舗菓子舗「堀井松月堂」が見えてきます。明治35年の創業時から、変わらぬ製法で作られる銘菓「きみごろも」がこちらの看板商品。「きみごろも」は新鮮な卵を使ったメレンゲ菓子の一種で、卵白を30分以上かけて手作業で泡立てて作る、ふわふわのメレンゲがおいしさの肝。砂糖や蜂蜜で甘みを加え、さらに寒天で固め、黄身の衣で包んで丁寧に焼き上げます。頬張った瞬間、あわ雪のようにすうっと消えゆく、はかない口当たりと、豊かな卵の風味がまさに絶妙。他にはない、唯一無二の味わいを求めて、遠方からも多くの人が訪れるのも頷ける美味しさです。「きみごろも」は奈良のおみやげランキングに常にランクインする人気商品ですが、販売店舗が限られているため宇陀市以外にほとんど出回らず、“幻のお菓子”といわれることも。松山地区を訪れるなら、ぜひ買い求めたい逸品です。
「きみごろも」と書かれた木の看板が店の目印
堀井松月堂 詳細DATA |
宇陀市大宇陀上1988 0745-83-0114 8:00~17:00(売り切れ次第終了) 水曜休み、年末年始および夏季休暇あり 駐車場なし(道の駅宇陀路大宇陀など、近隣駐車場を利用) |
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交通(公共交通機関) | 近鉄「榛原」駅から奈良交通バスで「大宇陀」下車、徒歩7分 |
エエとこ3. こだわりの十割蕎麦を、絶品角煮とともにいただく「手打そば&グリル まほろば」
細切りの冷たい十割蕎麦と、甘辛い角煮が食欲をそそる。「角煮とろろそば」
重伝建地区の南側には、2件の酒蔵が今も営業を続ける「酒蔵通り」と呼ぶ界隈があります。その一角、2017年にオープンしたのが、「手打そば&グリル まほろば」。こだわりの十割蕎麦を提供する、知る人ぞ知る人気店です。十割蕎麦はつなぎを一切用いず、蕎麦粉のみで打った麺のこと。一口すすれば蕎麦の風味が口に広がり、さわやかな香りがふわりと鼻を駆け抜けます。すこし蒸し暑い日もある初夏のおすすめは、キリッと冷やした十割蕎麦に、肉厚の豚角煮をトッピングした「角煮とろろそば」(1,880円)。国産のヤマトポークを、とろけるほど柔らかくなるまで煮込んだ角煮と、スッキリとのど越しのよい細打ち蕎麦との相性は抜群です。
涼しい町家造りの店内では、蕎麦打ち体験も実施。店主自ら「二八そば」の打ち方を丁寧に教えてくれます。打ちたての蕎麦はその場で湯がいて、ランチとしても頂けるので、気になる方は一度チャレンジしてみるのも一興ですよ。
築100年の元写真館をそのまま利用した、趣たっぷりの店内
手打そば&グリル まほろば 詳細DATA |
宇陀市大宇陀出新1809-1 ※子どもは入店不可。 |
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交通(公共交通機関) | 近鉄「榛原」駅から奈良交通バスで「大宇陀」下車、徒歩3分 |
エエとこ4. できたてのもちもち葛スイーツが楽しめる「茶房 葛味庵」
透明感があって涼しげな「葛もち」。香ばしい特製きな粉をつけていただこう
最後は重伝建地区からすこし足を延ばして、前述の「森野吉野葛本舗」の工場・直売店へ向かいましょう。併設の茶房では、できたての葛スイーツがいただけます。おすすめは、プルプルもっちりの歯ごたえがおいしい「葛もち」(660円)や、黒蜜たっぷりの冷たい「葛切り」(770円)。また、驚くほどなめらかな食感の「本蕨(わらび)もち」も人気の一品。すべて注文を受けてから作られるため、食べるときはまだほの温かく、独特のもちもち、プルプル食感が楽しめます。葛は身体の熱を取り除いてくれる効果があるので、たくさん歩いて火照った身体にはとても効果的。一口食べるごとに、おいしさが染み渡ります。直売店では「森野吉野葛本舗」が誇る最高級品質の吉野本葛(粉)や葛菓子も販売。松山地区の思い出に、一つ買い求めてみてはいかがでしょうか。
重伝建地区から500mほど北側にある「葛の館」
森野吉野葛本舗 葛の館「茶房 葛味庵」 詳細DATA |
宇陀市大宇陀西山3 0745-87-3011 10:00~16:00 水曜休み 駐車場10台(無料) |
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交通(公共交通機関) | 近鉄「榛原(はいばら)」駅から奈良交通バスで「西山」下車、徒歩5分 |
最後に
古来薬草の産地だった宇陀市松山地区。中世以降は城下町(商人町)の発展とともに、薬草の商いが盛んになりました。江戸中期になると、徳川8代将軍・吉宗公が講じた疫病対策国家プロジェクトにより、「森野旧薬園」(当時)で薬草の育成・生産が開始。漢方薬の安定供給の一端を担ったそうです。薬草の中でも、特に宇陀の葛根は高品質で、「吉野本葛」として料理や菓子作りに用いられるほか、熱さましなどの「生薬」としても利用されました。
ご当地の歴史を知ると、旅の面白さが増します。一足早い初夏の訪れを感じつつ、町巡りを楽しみましょう。なお、ご紹介した堀井松月堂の「きみごろも」は、2021年7月より奈良専門オンラインショップ「ならわし」(https://narawashi.jp/)で、初のネット販売がスタート。消費期限が3日(夏場は2日)と短いため、夏場はお取り寄せもおすすめですよ。
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