今だからこそ知りたい、新時代の奈良の漢方&薬膳
掲載日:2020年6月8日
表紙写真:漢方サロンcojica
ストレス過剰になりがちな現代生活に加え、目に見えないウイルスとの闘いなど、過酷さを増す私たちの暮らし。そんな時代だからこそ、病気に負けない身体と心を作る「漢方」や「薬膳」が、ジワジワと注目を集めています。はるか昔、大陸から高い技術や文化がもたらされた奈良は、いわば“日本の薬の始まりの地”。長い歴史に裏打ちされた奈良の「漢方&薬膳」で、今と未来を健やかに生きるための方法を探してみませんか?
目次
1.~始まりの地~奈良の“薬”ヒストリー
日本最古の朝廷がおかれた奈良には、薬の発祥から、製造(製薬)、販売へと発展した長い歴史があります。
日本に本格的な薬の知識が広まったのは、今から約1500年前の仏教伝来の頃といわれています。それ以前の人々は、神に祈ることで病魔から身を守ろうとしていました。ところが大陸との交易が盛んになると、異国から医術などさまざまな文化が伝来。日本(倭国)は一気に文明国へと発展します。病魔に打ち勝つには「悪疫退散」の祈りだけではなく、草の根や木の皮などから作る薬が重要だと、ようやく認識されだしたのです。
今もあちこちの漢方薬局で目にする『陀羅尼助』の丸薬
飛鳥時代になると、朝廷は各地で薬草の「採集」を始め、それは次第に「栽培」へと変わっていきました。周囲を山々に囲まれ、寒暖の差が激しく、十分な雨量と少ない降雪。奈良は薬草栽培にぴったりの環境でした。また、奈良には大陸から渡来した「生薬(薬草の全部または根、葉、花、果実など一部を乾燥させたもの)」がたくさん集まりました。東大寺の正倉院には、当時の薬(薬物)が今も大切に納められています。
同じ頃、いくつかの寺院では、それぞれ秘伝の処方で薬が作られ、「施薬」という薬の施しが行われていました。今も関西の漢方薬局などで見かける胃腸薬の『陀羅尼助(だらにすけ)』は、この頃に、修験道(しゅげんどう)の開祖として知られる役行者(えんのぎょうじゃ)によって創製されたと伝えられています。
一方で、処方された薬は高価すぎて、一般民衆にはなかなか手が届かない存在でした。そのため、人々は薬の代わりに身近な薬草などの知識をたくわえ、「薬湯」や「薬酒」、「薬膳」や「お茶」にして生活に楽しく取り入れていました。
ところで、「医食同源」という言葉を耳にしたことはありませんか。日頃からバランスのとれた食事をとることで病気を予防し、治療するという考え方を意味していて、実は近代になってから日本で生まれた言葉なのだそうです。ですが、それよりはるか昔から、薬草をうまく活用して病気を予防したり治そうとしたりする考え方は日本に根付いていたのです。
2. 今、改めて注目したい奈良の生薬「大和当帰(やまととうき)」
奈良は「生薬」となる薬草のすぐれた産地ですが、一体どんなものがあるのでしょう。江戸時代の『大和誌』などによると地黄(じおう)、当帰(とうき)、人参(にんじん)、大黄(だいおう)をはじめ、数十種類の薬草が育てられていたようです。それらのなかで、今ジワジワと注目を集めているのが「大和当帰」です。
サラダやスープ、天ぷらなどの料理に活用できる大和当帰の生葉(なまは)
当帰はセロリに似た香りがするセリ科の植物で、その根を乾燥させた生薬は、イライラやめまい、冷えや不安症など女性特有の「血の道症」などに効く婦人薬として知られています。これまで根は生薬に利用されてきましたが、葉は使われずに捨てられていました。しかし2012年に葉の部分が「非医」扱いとなり、葉の有効利用が注目されるようになりました。それからは、大和のハーブ「大和当帰葉」として、料理や加工食品に使ったり、お茶や入浴剤に活用されたりなど俄然注目を集めています。
※「非医」扱いとは……食品として流通可能になること
参考:奈良県福祉医療部医療政策局薬務課 発行「新 奈良のくすりのプロフィール」
:奈良県産業・観光・雇用振興部産業政策課 発行「漢方ゆかりの地 奈良 薬用作物 大和当帰」
3.奈良で出会う次世代の「漢方」「薬膳」
近頃、カウンセリングを重視していたり、得意分野に特化した新しいタイプの漢方薬局や、「薬膳」を取り入れたレストランやカフェが増えています。今回はそんな、奈良の新時代の「漢方薬局」と「薬膳カフェ」をご紹介します。
まずは、2019年6月にオープンした、オンライン相談を積極的に取り入れている「漢方サロン cojica(こじか)」。
白い扉を開けると、まるでカフェか雑貨店のようなオシャレな空間で、薬剤師の久吉(くよし)先生がにこやかな笑顔で出迎えてくれます。「漢方サロン cojica」のすぐ隣にある薬膳カフェ「POWER OF FOOD」で漢方セミナーの講師をしていた縁で、この場所にお店をオープン。「漢方になじみが薄い若者に、漢方のことを知ってもらいたい」との思いから、親しみを込めて漢方サロンと名付けました。
ジャズが流れる、洗練されたインテリアでまとめた店内
舌診では、色や形、舌苔の付き方などから体の状態を確認
電子レンジで煎ずる「煎じ薬」350円(税込)は、ハーブティーのような味わい
「病院に行くほどではないけど気になる症状がある、産前産後などで薬の服用に制限がある…など、西洋医学では対応できない症状。そんなとき、漢方なら改善できることが多々あります。だから、まずは漢方を知識の一つとして知っておいてもらいたいのです。辛いときに、漢方を選択肢に加えることが出来る方がもっと増えてほしいと願っています。」
続いては、お隣りの薬膳カフェ「POWER OF FOOD」に移動してみましょう。
「おかゆプレート」1,380円(税抜)。大和当帰葉をはじめ、新鮮な野菜がたっぷり!
店主吉田さんセレクトの品は野菜や果物も含めオンラインでも購入可能!
『熏習生活』シリーズより、写真上左から「ちになるおだし」1,350円、「ちになるお茶(当帰×レモングラス5P)」850円、「ちになるお茶(5P)」850円、写真手前「ちになるふりかけ」850円(すべて税抜)
「毎日の食事が明日の身体と心を作っています。このお店が、皆さんにとって“総合健康案内所“のように、忙しい毎日の中で、体や心の声に耳を澄ませるきっかけの場になってくれたらうれしいですね」と吉田さん。
オンラインショップでも、大和当帰の生葉や無農薬有機野菜、こだわりの食品などを購入することができるので、のぞいてみてはいかがでしょうか?
今や「漢方」や「薬膳」は、オンラインで自宅にいながら手に入ったり、カフェのように身近な新しい存在となって、私たちのそばに寄り添っています。少し前までは、症状が現れてから病院に行くのが当たり前でしたが、最近になって“未病(発病には至らないものの軽い症状のある状態)”との付き合い方や、 “養生(中医学や漢方で「今とこの先を快適に暮らすための方法のこと」”の考え方が、一層重視されるようになってきたことの現れなのかもしれません。
難しく捉えてしまいがちですが、「漢方」も「薬膳」も、健康な体でいるために欠かせないもの、今足りていないものを食事や漢方薬で補うことで、体や心のバランスを総合的に整えることを目的にしています。
もちろん両方取り入れてみるのも◎ですが、今、気になっている症状がある人なら薬として身体に直接効く「漢方」を、健康に過ごすための方法を普段から取り入れていきたい人なら「薬膳」からはじめてみてはいかがでしょうか? 自分自身の身体と心の声に耳を澄ましてみれば、自ずと答えが出てくるかもしれませんね。
<プロフィール>
久吉猛雄先生「漢方サロン cojica(こじか)」薬剤師、オーナー。京都薬科大学大学院卒業後、製薬会社の研究所で医薬品開発に関わる。その後、両親の病気をきっかけに漢方の道に。
吉田奈麻さん
「POWER OF FOOD」店主。人の体をつくる食べものを通して生きる力を蓄えてもらいたいとの思いから「食養生」を提案。大和当帰に着目したセミナーも多数開催。
漢方サロンcojica データ
電話 | 0742-36-6038 |
---|---|
住所 | 奈良市法蓮町421-4 井田マンション1F |
営業時間 | 10:00~18:00 |
定休日 | 日・月・祝 |
HP | http://www.naracojica.com/ |
※なるべく予約診療、または事前にオンライン相談をするのがベター。
POWER OF FOOD Café/Grocery&STUDIOデータ
電話 | 0742-33-1239 |
---|---|
住所 | 奈良市法蓮町421-4 井田マンション101 |
営業時間 | 11:00~17:00 |
定休日 | 日・月 |
HP | http://poweroffood.jp/ |